“食べれる漢方”大和当帰とは? 根と葉で心と身体をととのえる
大和当帰(ヤマトトウキ)は、古くから日本で親しまれてきた植物「当帰(トウキ)」の一種であり、根は漢方薬として、葉は食用として利用されている希少な生薬です。女性の体を温める漢方素材として活用されつつ、やわらかな葉は苦味と香りのバランスがよく、和え物や天ぷらなど多彩な料理にも利用できます。こうした「根は薬、葉は食す」という二つの顔を持つ大和当帰は、単なる農産物という枠を超え、漢方的な要素と食文化を融合させた貴重な存在として注目され続けています。
そもそも「当帰」とは?
当帰はセリ科トウキ属の多年草で、東洋医学では古くから血行を促し、冷えを改善するとして重宝されてきた生薬です。特に女性の体質改善や月経トラブルのケアに使われることが多いことから、「女性の味方」と呼ばれることも少なくありません。中国原産のものが歴史的に多く流通し、日本では北海当帰や大和当帰、宮崎県の日向当帰など、気候・風土に合わせて多種多様な当帰が育まれてきました。いずれも薬草としての位置づけが強いものの、成分含有量や風味は品種や産地によって異なります。そうした差異があるからこそ、当帰は各地域の独自性を支える貴重な存在として受け継がれてきたのです。最近では、薬効だけでなく葉の食用性やアロマ効果にも注目が集まり、当帰を身近に取り入れるライフスタイルが広がりつつあります。
奈良で育った「大和当帰」
大和当帰とは、主に奈良県の宇陀地域を中心に栽培される当帰の品種を指し、その名のとおり“大和の国”で育まれたことが特徴です。もともと豊かな森林や清らかな水源に恵まれ、山間地の昼夜の寒暖差が大きい気候が根や葉に豊富な成分を蓄えやすくしているといわれます。また、宇陀地域では古来より薬草栽培の文化が根づいており、大和当帰だけでなく多くの薬草が集まる土地柄です。そのため、農家や研究者が連携しながら在来種を守りつつ、より高品質の大和当帰を育てるための努力が重ねられてきました。根部分は漢方薬の原料となり、葉は独特の香りと苦味が特長で、さまざまな料理に用いられています。
大和当帰の歴史
大和当帰の歴史は奈良県の宇陀市と深く結びついています。『日本書紀』には、飛鳥時代の推古天皇が「菟田野に薬猟す」という記述があり、当時から薬草と所縁ある土地だったことがわかります。奈良県はかつて、「大和物」として知られる高品質な薬用作物の一大産地であり、その代表がヤマトトウキ(大和当帰)でした。ヤマトトウキは滋養強壮や鎮痛、補血などの薬効をもつ重要な生薬「当帰」として、婦人薬を中心に現在も多く使用されています。特に昭和50年代には年間200トン単位の生産量を誇るなど盛んに栽培されていましたが、その後は生薬の輸入依存や西洋医学の浸透などの影響により生産量が激減し、最盛期の約10分の1まで落ち込みました。こうした背景を受けて現在では、行政や農業研究機関が中心となり、苗の育成期間短縮や省面積化などの技術革新を通じて、国産薬草の再評価と産地復興の取り組みが進められています。宇陀市をはじめとする地域コミュニティが中心となって、大和当帰を守り育てる取り組みが続けられており、それが現代に受け継がれる「大和当帰」の歴史を支えているのです。
大和当帰が抱える課題
大和当帰は質の高い生薬として以外にも葉の独特の風味や栄養価の高さが注目されていますが、その栽培にはいくつもの課題が存在します。第一に、育苗から植え付け、除草に至るまで、多くの手間と時間を要することです。特に無農薬で栽培しようとすると、害虫対策や草取りに相当の労力がかかり、大規模栽培が難しいのが現状です。また、中国産の当帰が市場を席巻していることから、価格競争の面でも国産の大和当帰が苦戦を強いられています。国産品質の高さや安心感をアピールしても、安価な輸入品との比較で採算が合わないケースがあるため、栽培農家が減少する懸念も拭えません。しかしながら、近年は地産地消意識の高まりや、健康管理を自ら行うセルフメディケーションの普及、さらには心身の健康や幸福を追求するウェルビーイング志向の高まりを背景として、大和当帰の持つ価値が再評価されています。そして、持続可能な栽培方法やブランド化への取り組みなど、課題を克服しようとする活動が少しずつ広がっています。
大和当帰の栽培と収穫 ~昔と今の違い~
大和当帰は比較的冷涼な気候を好み、標高の高い地域でも育つため、昔から山間部の宇陀地域でも栽培が続けられてきました。かつては、農家が自家用や地元の薬草商人向けに小規模で栽培し、収穫期も手作業で根を掘り起こすのが一般的でした。さらに生葉の需要が増えていることから、収穫のタイミングにも工夫が必要になりました。昔ながらの方法では自然の山間地形を活用していましたが、今ではビニールハウスなどを使って栽培環境を制御する例もあります。ただし、根にしっかりと薬効成分を蓄えるためには、土づくりや除草といった手間は依然として欠かせません。伝統的な知恵と現代的な技術の両面から、より効率的で安定した栽培と収穫を目指す取り組みが行われているのです。
漢方薬としての大和当帰(根)
根に含まれる成分
大和当帰の根には、有効成分としてクマリン類やフタリド類、精油成分などが含まれています。これらは血行を促進したり、ホルモンバランスを整えたりするといわれており、漢方の世界では「婦人の宝」として珍重されてきました。体を内側から温める作用があることから、冷え性の改善や疲労回復にも期待が寄せられています。特にクマリン類は独特の芳香を放ち、リラックス効果があるとも考えられており、漢方薬の処方においては他の生薬と組み合わせることで効能を高めるとされています。これらの成分がバランス良く含まれているのが、宇陀地域の気候や土壌で育まれた大和当帰の魅力の一つといえるでしょう。
根に期待される効能
大和当帰の根は、一般的に漢方薬の処方として活用されることが多く、特に婦人科系の不調を緩和する素材として有名です。例えば冷えや生理不順、産後の体調不良など、女性特有の悩みのサポートに役立つと考えられています。また、血液循環を促すことで、肩こりや腰痛などのコリを和らげる効果も期待されています。加えて、精神面にもアプローチできるとされるため、イライラや落ち込みがちな時期に利用されるケースもあります。もちろん、個人差や体質の違いがあるため、漢方医や薬剤師に相談しながら取り入れることが望ましいですが、大和当帰の根が持つ多面的な作用は、古来から現代に至るまで多くの人々の健康を支えてきた理由の一つです。
食用としての大和当帰(葉)
葉に含まれる成分
大和当帰の葉には、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなど、現代の食生活で不足しがちな栄養素が豊富に含まれています。根ほど薬効成分は凝縮されていないものの、独特の苦味を生む成分や香り成分が多く、食欲増進やリフレッシュ効果が期待できます。さらに、繊維質も含まれているため、整腸作用をサポートするといわれることもあります。葉は収穫後にすぐ使うことで、フレッシュな香りや苦みを存分に楽しむことができ、加工せずとも天ぷらやおひたしなどシンプルな調理でも栄養を余すところなく摂取できるのが魅力です。大和当帰は「食べられる薬草」として実用的な面を多く持っているのです。
葉に期待される効能
大和当帰の葉を日常的に取り入れることで、体の巡りをサポートし、冷えを和らげる効果が期待されています。特に、葉の香りにはリラックスを促す作用があるため、ストレス緩和にも一役買うと考えられています。また、ビタミンやミネラルが豊富なことから、肌や髪の健康維持にも良い影響を与える可能性があります。根のように直接漢方薬としての処方に使われるわけではありませんが、食卓で手軽に楽しむことで、自然なかたちで薬膳的な効果を取り入れることができるのが葉の利点です。栄養バランスを整えつつ、独特の香味が食生活に彩りを添えてくれる点でも、葉は魅力ある存在といえるでしょう。
大和当帰葉や加工品を手に入れるには
大和当帰の葉や加工品は、地域限定のアイテムというイメージが強いかもしれませんが、実際にはオンラインやイベントを通じて手軽に入手できるようになっています。大和当帰は「生葉」と「乾燥葉」のいずれも流通しており、特に生葉は初夏から秋にかけてが中心的な収穫期です。そのため、生葉が欲しい場合は7〜10月頃を狙って探すと見つけやすいでしょう。乾燥葉は一年を通して購入しやすく、保存がきくため長期保管にも向いています。いずれも独特の風味を持ち合わせており、料理のアレンジ幅を広げてくれるので、興味がある方はぜひ試してみるのがおすすめです。
オンラインで購入
現在では、地元農家や生産者団体が運営する通販サイトや、大手ECサイトを通じて大和当帰の葉や加工品が取り扱われています。生産者直送の生葉を手に入れられることも多く、採れたての新鮮さが魅力です。また、クラフトコーラやお茶、パウダー状の加工品も販売されており、遠方の方でも手軽に試せるようになっています。口コミやレビューを参考にすると、使い勝手や味の特徴もつかみやすいでしょう。
購入できる場所(一例)
帰楽可楽 公式サイト(https://kirakucola.com/)
宇陀まほろば薬菜園 公式サイト(https://natsumira.base.shop/)
宇陀まほろば薬菜園 食べチョクサイト(https://www.tabechoku.com/producers/29053)
イベントに参加する
奈良県宇陀市やその周辺では、大和当帰をメインに据えたイベントや収穫体験ツアーなどが開催されることがあります。こうした機会に参加すると、現地の栽培農家から直接話を聞いたり、実際に生育環境を見学できるため、大和当帰への理解が深まるはずです。
特に「宇陀まほろば薬菜園」では、大和当帰の葉の収穫体験を随時実施しており、参加後は自分で収穫した葉を持ち帰ることもできます。また、イベント会場や道の駅などでは、生葉や加工品が特別価格で販売されることも多く、思わぬ掘り出し物に出会えるチャンスでもあります。イベント情報を定期的にInstagramで発信しています。収穫体験やイベント情報を逃さずチェックするために、公式アカウント(@uda_mahoroba)をぜひフォローしてみてください。地元の祭りやマルシェでも取り扱われることがあるので、SNSを通じて最新の情報を入手しましょう。
大和当帰で身体も心にも嬉しい体験を
大和当帰は、根を漢方薬として利用するだけでなく、葉を日々の食卓やドリンクに取り入れることで、身体だけでなく心にも優しい効果を期待できる植物です。奈良県宇陀市をはじめとする伝統的な薬草文化が息づく地域で、丁寧に栽培されているという背景もあり、その味わいと効能には古来からの知恵と信頼が詰まっています。もちろん、薬草としての力を最大限に活かすには専門家の助言が必要な面もありますが、まずは手軽な食用やドリンクから試してみるのがおすすめです。豊かな風味を楽しみながら、体の巡りを整えたり、リフレッシュしたりという日常のプラスアルファを得られれば、自然の恵みを存分に堪能できるはず。大和当帰を通じて、身体と心の両面から健やかな暮らしを目指してみてはいかがでしょうか。